相模湖某所の廃ペンションに行った
久方ぶりの廃墟活動、“ハイカツ”は、少し足を伸ばして相模湖まで行きました。
都内からそこまで離れてもおらず、それでいて自然と静寂を味わえる相模湖は、中々出掛けるのが憚れられるこの時期にピッタリな行楽地という所感がある。
その一方でその豊富な自然と一抹の寂寞は日が落ちるとその姿を変える。
人の都合など知ることなく勝手気ままに生い茂る木々は、立ち入ろうとするものを阻み、隠してしまうような圧迫感がある。
また、少し行楽地を離れれば、バブル時代の名残りだろうか、人の手を離れて久しい人工物が数多くあることに気づく。
今回向かったのは、そんなに時代に建てられたペンションである。
蛇のように畝る道を通り、木々をすり抜けていけば唐突にその建物は姿を顕す。
山奥の緩慢な享楽と尽きせぬ渇望の残滓。
そうした人の業を戒め、そして見せつけるかのように、容赦無く自然はこの異質な人工物の輪郭を際立たせる。
正直、こうした本格的な廃墟は初めてだったのでかなり気圧された部分があったが、心を落ち着け扉の前に行く。
ちなみに見えにくいが隣のドアには
『コロナウイルス Neverdie』
と書いてある。
色々突っ込みたい部分はありつつも、いい感じに肩の力が抜けて有り難い。
中に入るとすぐテーブルがあり、その上にはウイスキーと固定電話、観光雑誌があった。
雑誌の紙面を見ると2006年で時が止まっている。
その一方でウイスキーは3割ほど残っていて、またその配置にも造作的な印象を抱いた。
実はこのペンションのホームページが残っており、そこには2013年時点で「リニューアル中」との文言がある。
また、未だに予約サイトで予約することも可能だ。
明らかに“死んでいる”建物なのに、オーナーや我々のような闖入者がそれを認めない。
頸を刎ねられた後、1年半生き続けた鶏に似ているなと感じた。
部屋の中を見てまわると、子供の落書きやシール遊び、ここには写っていないが三輪車などを見つけた。
宿泊客が部屋の壁を汚したりはしないだろうし、何より厄介そうなオーナーがそれを許しはしないだろうから、おそらくオーナーの親族だろう。
思うにこうやって人を俯瞰できるのが廃墟の魅力ではないだろうか。
地下に行くと大量の落書きがあることに驚いた。
廃墟に落書きなんて比翼連理の二人だろう、と思う人もいるだろうが、上階にはほとんど落書きがなかった(暗いので見落としたかも)ので、些か唐突なご登場だったのだ。
子供の落書きに配慮したのだろうか?建物に闖入し損害を与える割には慎ましさがある。
人のことは言えないが…
きっとそれなりに美学があるんだろう。
屋上には露天風呂が併設してあり、『モーツァルト広場』と名がついていた。
(オーナーはモーツァルトを3曲くらいしか知らないんだろうな)と思える広場だ。
また、露天風呂はどう贔屓目に見てもビオトープにしか見えない。
衛生的な不評が絶えなかったらしいのもうなずける。
客室や浴場はこれと言って見るところはない。
小汚いが窓が多く閉塞感が少ないのは宿泊客だったら嬉しいだろう。
謎の海物語は流石に唐突すぎるので誰かが持ち込んだのだろうか?
それともパチンココーナーがあったのか?
あと、いま写真を確認して気付いたのだが、家具やテレビ、寝具が全く無い。
そういったものはすべて持ち出したのだろうか?
だとすれば、本気でリニューアルをするつもりだったのだろう。
それは叶わなかったようだが。(近隣の所有者が同じビルには不良債権の書類がポストに無造作に突っ込まれていたらしい。)
というわけで、充実のうちに廃墟探索は終わった。
総評するとすごく初心者向きの廃墟だったと思う。
上にも書いたが、窓が多いのでそんなに閉塞感は感じず、負のオーラみたいなものも少ない気がする。
俺は美輪明宏でもないので完全な勘だが。
また、床もしっかりしているし、ものが散乱しているわけでもない。怪我のリスクも少ないのではないだろうか。
また、屋上は見晴らしがよく、星もよく見えた。
インスタバカに受けも狙える。
また、だだっ広くないのも良い。
それでいてバリエーションに富んだ部屋がたくさんあり見て飽きない。
小粒だが中身が詰まっていて見ごたえがある。
2,3人で行けば全く恐怖を感じずに落ち着いてみて回れるのではないだろうか。