映画「手紙は憶えている」認知症の老人が立てた復讐計画。友人が記した手紙は何を語るのか。
おすすめポイント
- 重いテーマを扱った作品が好き。
- 一風変わったサスペンス劇に翻弄されたい。
- 映画には美しい音楽を求める。
当てはまる人は少々お付き合い頂ければ。
あらすじ
男はベッドの上で目を覚ました。
不安げに妻のルースを呼ぶが、返事がない。
おぼつかない足取りで部屋の外に出ると看護師やヘルパーや他の入居人がいる。
ヘルパーに妻の所在を聞くが、彼女は既に亡くなっていると話す。
そんな中、彼の友人マックスは「あの計画は覚えているか?」と語りかけるが、セブは首を横に振る。
「まあいい」とマックスは続ける。記憶が定かな頃にセブからその全てを聞いていたようだ。
そして、ルースの喪があけたその日ついに計画を実行に移す。
その計画とは家族を殺した元ナチスの男“ルディコランダー”に報復することだった。
その男の顔を覚えている数少ない人物の一人であるセブは、僅かな記憶とマックスが書いた手紙を頼りに復讐の旅路へと発つのであった。
感想
正直こんなにヘヴィな話だとは思わなかった。
あまり挙げられてないが、胸糞映画としてはトップレベルのものではないだろうか。
なんとなく「認知症のジジイが、何十年ぶりにナチスに報復する」なんて話だから、メメントのようなスマートでスリリングな話だと思っていたのがそれに拍車をかけた感もある。
この作品はどちらかといえばドラマ寄りの作品だ。
監督のアトム・エゴヤンはアルメニアを亡命してきた両親を親に持っている。
そのアイデンティは作品にも影響を与えていて、アルメニア人虐殺について扱った作品も撮っている。
そうした影響だろうか、ホロコーストを題材にしたこの作品にも監督のユダヤ人への強い共感や憐憫、義憤などが感じられる。
そうは言いながらも、復讐を果たそうと詰め寄るシーンの緊張感はすごい。
マイケル・ダナという映画音楽家が作中の音楽を担当しているが、オーケストラが奏でる不協和音を活かした現代音楽が、セブのおぼつかない足取りと相まって、非常におどろおどろしい印象を与える。
なんとなく結末がわかってしまうような展開なのは、サスペンスとしては難点だが、ストーリーとしては重みがあってよかったと思う。
被差別者の懐き続ける怨嗟や悔恨というものは、外部の人間にはわかりにくい。
そういったものの一端がわかるのではないだろうか。